3AC(スリー・アローズ・キャピタル)事件|35億ドルを溶かし「刑務所は楽しかった」と言い放つ創業者たち
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かつて暗号資産業界の「絶対王者」として君臨したヘッジファンド、Three Arrows Capital(3AC)。
100億ドルを超える資産を運用し、業界の誰もが彼らの投資先に注目していました。
しかし、2022年のTerra/LUNA崩壊をきっかけに、その実態は「過剰なレバレッジ」と「虚飾の信頼」の上に成り立つ砂上の楼閣だったことが露呈します。
負債総額は35億ドル。業界全体を道連れに自壊した3ACの崩壊劇と、逮捕されてもなお「刑務所は楽しかった」とうそぶく創業者たちの驚愕のその後を追いかけます。
Three Arrows Capital(3AC)事件とは
3ACはシンガポールを拠点とする暗号資産ヘッジファンド(富裕層や機関投資家から資金を集めて運用する私的な投資ファンド)で、Kyle Davies(カイル・デイヴィス)とSu Zhu(スー・ジュー)が2012年に設立。
二人はPhillips Academyで出会い、コロンビア大学を卒業後、クレディ・スイスで短期間働いた後に共同創業します。
当初はFX(外国為替)トレードに特化した新興市場向けのファンドでしたが、やがて暗号資産業界最大手の一角に成長。
最盛期には100億ドル超の資産を運用し、Solana、Terra(LUNA)など主要プロジェクトに投資していました。
Terra/Luna事件|数学的に証明済みが2週間で紙くずになった日
3AC崩壊のメカニズム
「借りて→買って→暴落して→返せなくなった」という、レバレッジ投資の最悪の結末です。
自己資金だけで投資していれば損失は自分だけで済んだのに、借金で膨らませていたから他社を道連れに。
3ACは「暗号資産の価格は上がり続ける」という前提のもと、各所から大量に借金をして暗号資産を買い続けていました。
価格が上がっている間は当然利益が出ますが、下がった瞬間に借金だけが残る構造です。
複数の債権者によれば、3ACは自社のエクスポージャーの規模について取引相手を誤解させていた可能性があります。
具体的には以下の流れで崩壊が進みました。
LUNA/UST崩壊(2022年5月)
3ACは2022年2月にLUNAトークンへ約2億ドルを投資。
しかしアルゴリズム型ステーブルコインUST+LUNAは5月に崩壊し、LUNAは80ドル台から数セントまで暴落。
マージンコール未達(2022年6月中旬)
3ACはBitcoin・Ethereum等の暗号資産でも高レバレッジポジションを保有しており、BlockFiやGenesisからのマージンコールに応じられなくなります。
ETHを担保に1億8,900万ドルのUSDC・USDTを借りていたが、返済も担保増額もできなかったとか。
清算命令(2022年6月27日)
英領バージン諸島の裁判所が清算を命令。2022年7月の破産申請によれば、債権者への請求額は35億ドルに上る。
「何故バージン諸島の裁判所が清算を命令?」と思いましたが、3ACはシンガポールに実態の拠点を置き、会社の法人登記は英領バージン諸島(BVI)だったんですね。
これは珍しいことではなく、ヘッジファンドや投資会社がタックスヘイブン(租税回避地)に法人を置くのは業界の慣行です。
市場への連鎖被害(コンテージョン)
3ACはあまりにも多くの会社と資金的に絡み合っていたため、3ACが傾くと芋づる式に他社も傾く構造に。
マージンコール(追加担保の要求)に応じられなくなった3ACが資産を強制売却され始めると、その売却が市場価格を押し下げ、さらに別の会社の担保価値も下がり、また別のマージンコールが発生する・・・という連鎖が止まらなくなったのです。
マージンコールに応じられなくなったことで連鎖清算が発生し、2022年5〜6月の暗暗号資産市場全体の時価総額を約半分に押し下げる一因となったのです。
主な被害企業
①貸し付けていた会社(Voyager・Genesis・BlockFiなど)
お金儲けが目的。3ACに貸せば利息が入る。
3ACは実績のある大手ヘッジファンドだったので、信用リスクが低いと判断して無担保または低担保で貸し付けていました。
「まさか返せなくなるとは思わなかった」という典型的な過信です。
②投資先だった会社(Deribit・Finbloxなど)
3ACから出資を受けていた会社です。3ACが破綻したことで出資金が消え経営が傾きました。
「有名ヘッジファンドから投資してもらえた」という信頼・ブランド効果が裏目に出た形です。
③市場全体への巻き添え
3ACが強制清算される際に大量の暗号資産を売り浴びせたことで、暗号資産の市場価格全体が下落。
直接関係のない投資家も損失を被りました。
共通しているのは「3ACへの過信」
10年の実績・Columbia大卒・Credit Suisse出身というブランドが効いていたんですかね。
業界内での評判が高すぎて誰もリスクを精査しなかったというのが被害拡大の一因。
ただこれも詐欺の古典的な構図で、「信頼の悪用」というものです。
創業者のその後
清算人はDaviesとZhuを相手取り13億ドルの回収を目指します。2023年9月、Zhuはシンガポールのチャンギ空港で出国しようとしたところを逮捕。
清算人への協力義務を果たさなかったとして禁錮4ヶ月の収監命令が出ていました。
2022年末には香港拠点のOpen Exchange(OPNX)という新たな暗号資産関連事業を立ち上げ、2023年6月には独自トークンの提供も開始。
Daviesは「初期の3ACに似た雰囲気を感じる」とTwitterに投稿し、批判を浴びます。
Daviesも同様の命令の対象となっています。Daviesは2024年時点で、逃亡中というより、堂々と逃げ続けているという感じ。
「シンガポールに戻ると逮捕されるリスクがあるから戻らない」と本人が明言。
所在地を聞かれると「ヨーロッパとアジアを行ったり来たりしている」と答え、ポルトガル在住とも述べています。
詐欺的側面
裁判資料によれば、ヨットの頭金にユーザー資金が流用されていたこと、「Tai Ping Shan Ltd(TPS)」というSu Zhu・Davies夫妻所有のペーパーカンパニーを通じてトレードが行われていたこと、3ACがDaviesの妻に6,500万ドルを「債権者」として計上するなど不審な取引が複数確認されています。
Three Arrows Capital(3AC)事件まとめ
| 観点 | 詳細 |
|---|---|
| 崩壊の引き金 | Terra/LUNA崩壊による約2億ドルの投資が無価値化。 Bitcoin・Ethereum等でも高レバレッジポジションを保有 |
| 詐欺的側面 | 取引相手に対してエクスポージャーの規模を意図的に過小申告。 ヨットの頭金に顧客資金を流用 |
| 不審な取引 | ペーパーカンパニー「Tai Ping Shan Ltd」経由のトレード、 Davies妻への6,500万ドルを「債権者」として計上 |
| 被害規模 | 20社以上に総額35億ドル超の負債。 Voyager Digital・BlockFi・Genesisなどが連鎖破綻 |
| 市場への影響 | 暗号資産市場全体の時価総額を48%押し下げる一因に |
| 刑事責任 | Su Zhu:2023年9月シンガポールで逮捕、禁錮4ヶ月。 Kyle Davies:所在不明のまま同様の収監命令 |
- 参考
- S-RM
- ・仮想通貨暴落:スリー・アローズ・キャピタルの清算を解明する
- PONTEM NETWORK
- ・3AC(スリー・アローズ・キャピタル)の破綻:知っておくべきことすべて
編集後記
実際に起きたSPS事件を調べると、SPSの手口そのものより、むしろ事件を起こした人物像のユニークさに目が行きます。Terra/Luna事件のDo Kwon(ド・クォン)、Sam Bankman-Fried(FTX)事件のSam Bankman-Fried(通称SBF)、そしてこの3AC(スリー・アローズ・キャピタル)事件のKyle Davies(カイル・デイヴィス)とSu Zhu(スー・ジュー)も。
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Su Zhu(スー・ジュー)
Su Zhuは崩壊前、老子の「道徳経」を思わせるような哲学的なツイートを連発し、CryptoTwitter(暗号資産界隈のSNSコミュニティ)で熱狂的な信者を集めていたんですね。
「クリプトは人類の記憶の第4紀元だ」とか何とか。当時のフォロワーはうっとりしながら読んでいたのかしら。
3ACが破綻し、35億ドルの負債を各社に残して姿をくらませた後も、その哲学的スタンスは崩れなかった。
「クマたちは未来の買い壁を作り、その代金を払うことになる」と投稿。
「今売っている人たち(=弱気派・クマ)が価格を下げることで、将来の上昇相場の土台を作っている。そして結局その上昇相場で高値掴みすることになる」といった意味のようですが、Terra崩壊の直後にこんな投稿をして、世界中から「お前が払え」とツッコまれました。
そして逮捕・服役を終えた後の一言がこれ。「もちろん誰も刑務所には行きたくない。でも総合的には、実はかなり楽しい体験だったと思う」だって。
他人の金を35億ドル溶かした人間の感想ですよ?
Kyle Davies(カイル・デイヴィス)
Daviesは2024年時点で、逃亡中というより、堂々と逃げ続けているという感じ。
3AC崩壊について「反省していない」と発言し、「せめて次の3ACに、破綻したときのうまいやり方を教えられるかもしれない」とコメントしたとか。
「シンガポールに戻ると逮捕されるリスクがあるから戻らない」と本人が明言。
所在地を聞かれると「ヨーロッパとアジアを行ったり来たりしている」と答え、ポルトガル在住とも述べています。
さらにDaviesはアメリカ国籍を放棄済みとして「米国の裁判所の管轄に服する必要はない」と法廷文書で主張。
法律的にこれは可能だけど、管轄権の根拠は国籍だけではありません。
- ・アメリカの投資家を騙した
- ・アメリカの金融市場に影響を与えた
- ・アメリカの法律(証券法など)に違反した
これだけで十分に米国の管轄権は成立するという見方が法律家の間では一般的です。
つまり国籍放棄は免罪符にならないというのが大方の見解です。
もしDaviesが逮捕されたとしたら、どんな言葉を残すんでしょうね?
貸し付けていた会社もどうかと
3AC事件で何気にツボだったのは、貸し付けていた会社です。
3ACは実績のある大手ヘッジファンドだったので、信用リスクが低いと判断して無担保または低担保で貸し付けていた・・・もっともリフレインした一文です。
絶句。さすがにこっちもアホかもしんない。
ただ一応フォローすると、当時の暗号資産業界全体がそういう空気だったんで、分からなくもない・・・いやわかんないけどさ。
2021年のバブル期は何を買っても上がる相場で、「3ACが潰れるわけがない」という根拠のない確信が業界全体に蔓延していたのよ。
被害者企業もプロのはずなのに基本的なリスク管理ができていなかったというのがこの事件の本質の一つと言えますね。
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