アービトラージボット作成チュートリアル動画で暗号資産を奪う【偽のコードコンパイラ編】
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暗号資産を始めようとして、早々に投げ出したくなったことはありませんか?
取引所で口座を作る。本人確認する。ウォレットというものを用意する。ETH(イーサリアム)を買って、そのウォレットに送る。
用語も画面も初めてのものばかりで疲れます。
そこへ、こんな売り文句の動画が流れてきたらどうでしょう。
- ・AIにコードを書かせてアービトラージボットを作ろう
- ・プログラミングの経験は要りません
- ・手順どおりにやれば、あとは自動で稼いでくれます
面倒なところはAIが全部やってくれて、手順は動画で丁寧に見せてくれるのです。
先日こちらの記事では、偽チュートリアルでマルウェアを実行させる手口がありますよといった内容をお送りしました。
【偽チュートリアル】であなた自身にマルウェアを実行させる手口とは
今回は、マルウェアではなく、あなた自身の手で暗号資産を詐欺師に渡してしまうという詐欺手口を紹介したいと思います。
アービトラージは本当に難しくて大変
そもそもアービトラージって何?なので、簡単に解説。
アービトラージ自体は株や為替でも昔から使われてきた、値段のずれを利益にする考え方です。
同じ暗号資産でも取引所によって値段が少しずれることがあります。安いほうで買って、高いほうで売れば、差額が利益になる。
これがアービトラージ(裁定取引)です。
ずれる理由は色々で、売り買いの偏りや取引所ごとの取引量の違い、情報が伝わる速さの差など。
相場で動いているから起きる現象。ただ、話はそう簡単ではありません。
- ・価格差はすぐに消える
- ・手数料がかかる
- ・注文したときの価格と、実際に成立する価格がずれることもある
- ・取引所のあいだでお金を動かすと時間がかかり、その間にも値段は動く
イーサリアム上の自動売買(MEVボット)になると、さらに大変。
ブロックに入る前の取引を見張って、順番を争う競争になるからです。
米国のCFTC(商品先物取引委員会)の委員も、2022年の声明で、こうした利益は一瞬で消えやすく、競争がきわめて激しいと述べています。
放っておいて自動で稼げるような世界ではないということがよくわかると思います。
経験者ほど危ないという指摘
ここで、この詐欺を初めて包括的に調べた学術論文(2023年)の指摘を紹介しますね。
こういったことに論文が存在すること自体中々ユニークに感じます。
論文によると、この詐欺は、初心者を狙うほかの暗号資産詐欺とは違います。
コードをコピーして、コンパイルして、デプロイして、入金する。手順がいくつもあるので、スマートコントラクトの扱いに慣れた人を主に狙っている、という分析です。
冒頭で、暗号資産は始めるだけでも面倒だと書きました。
加えてこの手順を踏める人は、もう「慣れた人」なのかもしれません。
次は詐欺手口を紹介していきますね。
入り口はチュートリアル動画
いま最も詳しい報告があがっている手口を紹介します。入り口はよくあるチュートリアル動画です。
自動取引ボットを作ろう
TRM Labsが確認したのは、Claudeを使って暗号資産の自動取引ボットを作る方法を紹介するYouTube動画です。
チュートリアル動画では、ウォレットを準備し、コードをコピーし、スマートコントラクトをデプロイして、最後に暗号資産を入金するという手順を説明。
視聴者は動画を見ながら、その手順を自分で実行します。
完成するはずのトレードボットには、実際には取引機能もAI機能もありません。
TRM Labsの調査では、最終的にデプロイされるコントラクトは、入金された暗号資産を攻撃者側へ送るためのものでした。
Remixに似せた偽のコードコンパイラ
この詐欺である意味感心したのは、動画で見せられるコードそのものに不審な部分が見つからないこと。
被害者は、悪意のあるコードをそのまま実行させられるわけではありません。
攻撃者が用意したのは、Remixに似せた偽のコードコンパイラでした。
動画の指示に従って、そのサイトにコードを貼り付けます。
ところが、コンパイラは貼り付けられたコードをそのままコンパイル(人間が書いたソースコードをコンピュータが実行できる形式に変換する処理のこと)していません。
調査されたケースでは、画面に貼り付けられたコードを破棄、攻撃者のサーバーから別のコードを取得してコンパイルしていました。
画面で確認したコードと、実際にブロックチェーンへデプロイされたコードが違っていたのです。
警告が出にくい理由
今回の手口は被害者自身がスマートコントラクトをデプロイし、自分のウォレットから暗号資産を入金。
フィッシングサイトにウォレットを接続するわけでもなく、不審な承認を求められるわけでもありません。
そのため、ウォレットのセキュリティ警告やフィッシング対策だけでは、この動きを不正なものとして検知しにくくなるのです。
TRM Labsは、今回の詐欺は被害者が自分で操作した、ふつうの取引に見えることが、従来の防御策をすり抜ける要因になっていると説明しています。
Claudeを信頼させるために利用
動画では、AIトレードボットを作るためにClaudeを利用すると説明。
しかし、TRM Labsが調査したコントラクトやコンパイラサイトには、ClaudeやAIの機能は確認されませんでした。
Claudeは実際のトレードボットに使われていたのではなく、「AIを使った高度なシステムを作れる」という印象を与えるための材料として使われていたのです。
TRM Labsによれば、2025年には同じような仕組みでChatGPTを利用した動画も確認されています。
AIの名前をClaudeからChatGPTに変えても、詐欺の仕組みそのものは変わりません。
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「怪しいメール」はもう古い。攻撃者が本当に狙っているのは信頼そのものだった
追加で入金すれば復旧する
お金が消えて戸惑っている被害者に、さらにお金を出させようとするタイプも確認されています。
あるコンパイラのサイトでは、資金が消えたあとに、こんなエラーが表示されました。
「ボットが止まっているので、最初に入れた額の50%(最大1 ETH)を「ガス代」として追加し、もう一度Startを押してください」という内容です。
そこで使われた「gas nonce liquidity」という言葉は、イーサリアムには存在しません。
TRMによると、契約にもそんなエラーはなく、追加の送金を引き出すためだけのものでした。
9本の動画は共通の制作元がいる可能性
TRMが調べた9本の動画は製作者が別々の投稿に見えますが、共通の制作元がいる兆候がありました。
- ・台本がほぼ同じで、画面の手順も同じ順番
- ・AIで作った話し手や声を使って、別人に見せかけている
- ・複数の動画で、同じ利益額を「実績」として見せている
- ・画面のURLを隠して、概要欄のリンクへ誘導
- ・コメント欄には「うまくいった」という偽の感想が並ぶ
9本の動画は、2026年9月の時点でも公開されていて、投稿が始まった4月からの累計再生は310,474回でした。
すでに削除された以前の動画もあったとのことで、氷山の一角と見られます。
アービトラージ詐欺に遭わないために
こうした利益は一瞬で消えやすく、競争がきわめて激しいと上でも書きました。
始める前に、あなたにとって本当に必要なものか考えてみてくださいね。
危険なサインのチェックリスト
アービトラージに限ったことではありません。危険なサインはお金関連で共通しています。
ひとつでも当てはまったら、いったん手を止めてください。
- ・「誰でも簡単」「経験不要」「利益保証」を、しきりに強調している
- ・動画の概要欄やコメントのリンク先で、コードを貼り付けさせる
- ・同じ台本や、同じ画面の動画が、別々のチャンネルにある
- ・動画やコメントに出てくる利益額が、不自然にそろっている
- ・入金したあとに、エラーを理由に追加入金を求められる
- ・運営者の実体が確認できない
- ・「いま始めないと損」と急がせる
- ・保険や保証をうたうのに、確認できる根拠がない
引っかからないための対策
デプロイに使うツールは自分で選ぶ
動画の概要欄やコメントのリンクからではなく、必ずあなた自身で公式サイトを探して開いてください。
画面のコードが読めても安心しない
画面のコードと、実際にチェーンへ載る中身が違うことがあるからです。
デプロイされた契約を確認する
ブロックチェーンエクスプローラーで、デプロイされた契約を確認する方法もあります。ただし、コードが読める人向けです。補助と考えてください。
少額でも試さない
動画は1〜2 ETHを入れるよう指示していました。少額なら安全、とは限りません。どうしても試すなら、なくなる前提で、メインの資産とは完全に分けたウォレットで。
高利回り、元本や利益保証を疑う
「預けるだけ」で高い利回りを約束する話は疑ってください。元本や利益を保証する運用に、まともなものはありません。
被害に遭ってしまったら
- ・すぐに操作をやめて、追加の入金はしない
- ・動画のURL、コンパイラのサイト、送金先のアドレス、取引のID(ハッシュ)を記録
- ・警察のサイバー犯罪相談窓口や、消費者ホットライン(188)に相談
ただ、ブロックチェーンの送金は取り消せません。TRMも、盗まれた資金が分散型の仕組みやミキサーを通って動いたと報告しています。
取り戻すのは簡単ではありませんので、送金前に止まることが大事です。
AIというキーワードに騙されないで
みんなが同じボットを使えば、価格差はすぐ消えるんじゃ?と思ったなら、あなたは騙されないかも。
でも、そんな疑問を打ち消すように「AIは人と違って24時間365日休まず動く」「AIは人と違って疲れない」「AIは人と違って一瞬を見逃さない」といった言葉を並べてくるかもしれません。
完全に間違ったことを言っているわけではありませんが、デメリットもある。デメリットは出さない、いい事しか言わない。
もしくは、あえてデメリットを出して誠実さを装うことすらするのが詐欺師です。
こういった詐欺事件の背景には、ChatGPTやClaudeといったAIの普及があります。
日本では利用者がまだ少ない印象でしたが、今年はニュースになるような話題も多く、使う人が増えたのではと思います。
特にChatGPTやClaudeは「コードに強い」と言われ、自分でアプリを簡単に作れるようになっています。
AIエージェントに役割分担をさせ、例えば「アービトラージボットを作成するために、何が必要なのか調べる」ということから始められ、コード書く、書いたコードが正しいかチェックするといった一連の作業を全部AIに丸投げできてしまう。
暗号資産取引所に既に登録し、ウォレットを持っている人なら、AIでアービトラージボットを自作したいと考えるのはわかる気がするんですよ。
「AIにコードを書かせてアービトラージボットを作ろう」というキーワードでネット検索したら出てきた「Reddit」のスレッドがこちら。
「不労所得を得るためにアービトラージボットを作ろうかなって考えてるんだよね。」って、そう思いたくなるのかな?
私?私の場合は暗号資産、Web3界隈って個人的には縁がないので、「アービトラージって何なの?」からだったのです。
もしかして超難しいことを記事にしようとしてるのか?記事書けるのか?って心配になっちゃった(笑)。
結局、詐欺手口は何も変わらない、どの界隈でも同じなんだなと、つくづく感じた次第。
こんな大変なものに手を出す必要があるのか?なぜ、わざわざアービトラージを選ぶのか?一瞬で消えやすい利益だから追いかけるのが楽しいのでしょうか?
私のような凡人には理解しがたいものですね。不思議な世界に映ります。
お金が関わる場所には必ず詐欺師が現れる。Web2でもWeb3でも。
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